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ケスケラの徒然日記

このブログでは日々の気づきをランダムに記録します。

補集合と部分集合について

本日のお題は、A・C・チャン著『現代経済学の数学的基礎』の中の問題である。

第1部第2章 練習問題2.3の9

例6は\phiUの補集合であることを示す。しかし空集合はいかなる集合の部分集合でもあるから、\phiUの部分集合でなければならない.「Uの補集合」という語がUの中にはないという意味であり、「Uの部分集合」という語がUの中にあるという意味であるかぎり、\phiがこれらの両者であるというのは逆説的にみえる。この逆説をいかに解くか。

これは良問である。

ここでUというのは普遍集合(全体集合)のことであるが、仮に全体集合Uの中の集合をAとするならば、補集合\tilde{A}とは{x|x\in U \cap x\notin A}である。すると全体集合Uそれ自身の補集合\tilde{U}はどうなるかという問題である。

この問題は空集合の定義の再確認と、補集合と部分集合との関係の理解をねらっているように思われる。翻訳版に解答はないが、原書の解答には\notin\not\subsetを区別せよ、とある。

逆説的にみえるのは問題文の「中にはない」と「中にある」が曖昧な表現であることに起因すると思われる。

全体集合の補集合とは、全体集合の要素ではない要素の集合であるから、それは存在しない要素なので、空集合となる。だから「中にはない」とは、空集合の要素は全体集合の要素ではないということを意味するのであって、空集合が全体集合に含まれないという意味ではない。つまり\notinであって\not\subsetではない。原書の解答はそのことを示していると思われる。

一方で、「中にある」とは、空集合はすべての集合の部分集合なので、全体集合に含まれるという意味である。つまり\phi \subset Uである。(例えば集合{a,b}の部分集合族は、{\phi,{a},{b},{a,b}}である。つまり集合の要素a,bではない無を要素とする空集合\phiが部分集合になっている。)

したがって補集合と部分集合の定義の仕方が異なるのだから、問題文の逆説(中にあると中にない)が、\not\subset\subsetの同時成立であると言おうとしているのであれば、そのような逆説はないと一応言えるのだが、どうもスッキリしない。

スッキリしないのは、空集合の要素が全体集合の要素ではないということが記号表現できないからである。空集合の要素は存在しないのだから当たり前である、と言葉で説明するしかないのである。

空集合\phiの要素が存在しないことについては\phi={ }と表記するしかないのだが、それでは空集合の要素それ自体を対象として論じることができない。存在しない要素を対象として論じることができないのはもっともであるが、空集合{0}ではないのだから、0とは区別された絶対無を表現する記号の必要性を感じる。そこで、あえて空集合の要素を記号表現すればハイデッガー流に、存在\existsを否定する\not\existsを使って\not\exists \notin Uとでも表現するしかない。すると確かに\tilde{U}={\not\exists}=\phiとなり、Uの要素ではない要素\not\existsをもつ集合だから、Uの補集合であることが明確になる。

\phi={\not\exists}を言語化すれば、「空集合の要素とは、存在しない要素である」というヘンな日本語にならざるをえないが、記号化すると、その言おうとする意味が明瞭になる。

言葉と異なり、記号が有利であるのは、射程範囲が広いことである。例えば、この記号をさらに{a,b}に適用してみると、その部分集合族は次のように表示される。{{\not\exists,\not\exists},{a,\not\exists},{\not\exists,b},{a,b}}

こうしてみると部分集合族とは要素a,bが存在しない場合を0、存在する場合を1に対応させたときの2進法表示(00, 10, 01, 11)に他ならないことが分かる。ゆえにn個の要素をもつ集合の部分集合の数は2^nである。絶対無の記号\not\existsを使用しない証明よりも見通しがよいように思われる。他にも応用できそうである。

そして空集合\phi={\not\exists,\not\exists}{a,b} の部分集合であり、かつ{a,b}の要素ではない要素\not\existsの集合として{a,b}それ自体の補集合であることも明瞭である。

以上のように記号\not\existsを使用すると、空集合、補集合、部分集合の関係が明確になる。

問題文の「中にはない」は、\not\exists \notin Uであり、「中にある」は{\not\exists}\subset Uであることを意味すると解すれば、それは\notin\subsetの同時成立であって、\in\notin、あるいは\subset\not\subsetの同時成立を推論するものではないから、推論に矛盾はなく、逆説は存在しないことになる。これでスッキリした。